やはり眠れていなかったのだと思います。
布団には入っている。時間もそれなりに取っている。
だから「睡眠は足りている」と、どこかで思い込んでいました。
ただ、日中の身体は正直でした。
朝から、どこか重い。集中力が続かない。理由もなく疲れている。
「忙しいから仕方ない」そう片付けていた違和感が、
実は、眠りの質とつながっていたことを、後になって知ることになります。
装いにも、その影響は出ていました。
スーツを着ても、
年々体重の増加による影響もあり姿勢が定まらず、補正のバランスがその都度変わっている。
鏡に映る自分が、どこか落ち着いて見えない。
今思えば、それは服や技術の問題ではありませんでした。
身体が回復しきっていない状態で、その上に装いを重ねていただけのこと。
いくら丁寧に選んだ服でも、土台となる身体が整っていなければ、装いは本来の力を発揮しません。
眠りが浅いと、日中の呼吸も浅くなります。
呼吸が浅くなると、姿勢が崩れやすくなる。
姿勢が崩れると、表情や所作にも、微妙な違和感が出てくる。
その積み重ねが、「なんとなく決まらない装い」につながっていたのだと思います。
当時の私は、装いを整えようとしながら、一番手前にあるものを、見落としていました。

呼吸が浅くなると、身体には分かりやすい変化が出てきます。
図左のように、肩が前に入り、背中が丸くなり、首が少し前に出る。
いわゆる前肩・屈身・前首の状態です。
仕立ての現場にいると、この姿勢の変化は、とてもはっきり見えてきます。
スーツを着たとき、襟がきれいに首に沿わず、後ろに引っ張られるように襟が抜けてしまう。
当然、補正は行います。
前肩補正、首の付け位置、上衣のバランス調整。
技術的に出来ることは、正直、たくさんあります。
ただ、それでもどうしてもカバーしきれない要素が残ることがあります。
それは、着ている間に身体そのものが動いてしまうからです。
呼吸が浅い状態では、胸が開かず、無意識に肩で呼吸をするようになります。
そうすると、姿勢は元に戻ろうとせず、スーツの上で、身体だけが前に落ちていく。
結果として、
・補正は入っているのに
・仮縫いでは良かったのに
・時間が経つと、また襟が抜ける
そんな現象が起きます。
ここで、一つだけはっきりしていることがあります。
それは、補正だけでは限界があるということです。
もちろん、仕立てで出来ることは、きちんとやります。
ただ、根本にある「呼吸の浅さ」「身体の回復不足」
がそのままであれば、装いは、どうしても追いつかない。
だから最近は、以前よりも強く思うようになりました。
きれいに着ることと、無理なく着られることは、別の話ではない。
お客様のスタイリングも根本から整えたいと。