岡崎(Okazaki) Last 606

第四章:岡崎(Okazaki) – Last 606

― 余裕と品格を、日常に添える一足 ―

「今日はネクタイ、いらんかな」
鏡の前でそう呟きながら、彼は白シャツの襟を軽く整えた。グレーのサマーウールのジャケット、リネンのスラックス、そして足元には“岡崎”モデル――Last 606。ローファー型の柔らかいラインが、全体の印象に程よい抜けを与えてくれる。

この日は、午前から美術館に関わる打ち合わせ。岡崎エリアは、文化と静けさが共存する、京都でも特異な風景を持つ街だ。平安神宮の朱塗りの大鳥居を横目に、「京都市京セラ美術館」のカフェでアート関係者と顔を合わせ、軽く一杯のエスプレッソを。形式ばった商談ではないが、そこには“品”が求められる。

「岡崎って、京都の中でも“おだやかで知的な場所”って感じしますよね」
そう話していたのは、広告関係のディレクターのゆうと。彼と歩いた岡崎疏水沿いには、春の桜、夏の新緑、秋の落ち葉、冬の静寂――すべての季節が、どこか知的に、上品に過ぎていく。

Last 606は、そんな岡崎に寄り添う木型だ。ローファーでありながら、浅すぎず深すぎずの絶妙なバランス。トゥは丸みを持たせつつもシャープさを残し、構築的な立ち上がりが足元を引き締める。ベーシックでいて、どこか都会的。まさに“岡崎らしさ”そのものだ。

午後には、「ロームシアター京都」脇のベンチで、コーヒー片手に一息。観光地でありながら、ここには地元の人の生活がちゃんとある。散歩中の老夫婦、ベビーカーを押す母親、出勤途中の研究者風の男性――彼のローファーもまた、この場所に自然と馴染んでいた。

ランチは、「グリル子宝」でオムライスを。
観光向けとは少し違う、昔ながらの丁寧な洋食。どこか懐かしく、そして品のある味わいが、岡崎の空気とよく合う。

食後、彼がふらりと足を向けたのは「京都市動物園」裏手の疏水沿い。
観光客の少ないその辺りは、岡崎でもひときわ静かなエリア。
ベンチに腰をかけ、揺れる水面と通り過ぎる小学生の笑い声をぼんやりと眺める。

ほんの30分の空白。それでも心は、驚くほど軽くなる。
足元のローファーが、その時間をそっと支えてくれていることに、彼はふと気づいた。

日常を、少しだけ“文化的”に。
足元から、静かに品格を引き出す。
それが、“岡崎”という名をもつローファーの役割なのだ。

参考モデル:岡崎(Okazaki)  Last 606 – 010(ビットモカシン)

製法:マッケイ製法

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